表紙に怖い顔をした男の写真。この写真集を手に取る人はよっぽど変わった人じゃないかと思う。
でもページを開いて見るとこれが面白い。よくあるポートレイト写真と違って登場人物が半端じゃない。
裸で肉体を見せる人もいれば、人形を子供として育てている人がいる。軍服を着ていたり、
今でいうニュー・ハーフというより「オカマ」といった方が似合いそうな人もいて、
これら撮影された人は一般人なんだけどちょっと変わった人たちであることは一目見て分かる。
自動販売機で買った酒を飲む、50円玉をネックレスにしたアパッチと名乗る男 1985
著者の名前は鬼海弘雄。1945年生まれの写真家で大学卒業後、山形県職員、トラック運転手、造船所工員、 遠洋マグロ漁船乗務員など様々な職業を経て写真家になりました。 鬼海さんはアメリカの有名な写真家、ダイアン・アーバスの作品に衝撃を受け、人物写真を撮るようになります。 そして浅草の浅草寺に参拝に来る人を呼び止めて写真を撮るようになりました。 当初は家族連れを撮ったり、背景もいろいろ変えて撮ったりしていましたが、 次第に浅草寺の境内の壁を背景に一人の人間を正面からクローズアップで撮影する手法を確立していきました。
舞踏家 吉本大輔 2001 ©Hiroh Kikai
鬼海さんの作品には「自動販売機で買った酒を飲む、50円玉をネックレスにしたアパッチと名乗る男」、「老衰した愛犬を抱え、散歩についれていた人」、「自由業だという人」、
「日にちを間違え、花火大会だと思って来てしまったという男」など、独特のタイトルがついてます。このタイトルと作品を併せて見るといろいろな想像をさせられてしまいます。
鬼海さんはあるインタビューでこう答えています。「僕が撮っているのは金にならない写真だからね。金にならない写真を真剣に撮る意味はどこにあるのかというと、
それは写真を見てくれる人の想像力をどれだけ揺さぶれるか。それしかない。」
また、鬼海さんはこうも言います、「僕は変わった人や面白い人を撮っているわけではない」と。
鬼海さんに展覧会でお会いすることが出来た時、「大勢いる中でどういう人を選んで撮影しているのですか」と質問したところ、
「その人から何かオーラのようなものが感じられるんだよ」と答えられました。
日にちを間違え、花火大会だと思って来てしまったという男の写真 2000 ©Hiroh Kikai
鬼海さんの作品を見ていると、人が善人か悪人か、金持ちか貧乏か、幸せか不幸せかはまったく関係なく、
人がこの世に生きている力強さを感じさせてくれます。またそれを通じて自分とは何か、生きているとは何かを考えさせられます。
この写真集には100人以上の写真が掲載されていて、ひとりひとりが個性的で何度見ても見飽きることがありません。
私にとっては人を撮るとはどういうことか、人間とは何か、人生とは何かを考えさせてくれる写真集です。
※本サイトの写真は鬼海弘雄さん、株式会社クレヴィスのご厚意により掲載しております。
株式会社クレヴィスのサイト → http://crevis.co.jp/