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『Mister G.』 ジルベール・ガルサン(Gilbert Gercin) Filigranes Editions

「Mister G.」の表紙写真

 ブルーの表紙に金文字で「Mister G.」。小説の本かと思いきや、実はジルベール・ガルサンという作家の写真集なのです。 写真集にしては珍しく表紙に写真がまったくありません。本屋に並んでいても写真集と気付かれないかもしれません。 実際、我が家でもこの本を本棚に入れておくと、どこにあるか分からなくなってしまうことがあります。
 日本ではあまり聞かれないジルベール・ガルサンとは、いったいどんな作家でしょうか。

三日月模様の地面に立つ三日月型の板を持つ男の写真
La conquete de l'espace - Space conquest © Gilbert Gercin

 ジルベール・ガルサンは1929年にフランスのマルセイユに生まれました。彼はシャンデリアなど照明の技術者でした。
 1989年、60歳で定年となったガルサンはマルセイユでの仕事を辞め、カメラを持って写真を撮り始めます。 彼は当初、家族写真や風景写真を撮っていましたが、しばらくするとアパートのテラスを即興のスタジオに仕立て、自分自身が演じる「Mr. Nobody」と呼ぶ人物を撮ることに熱中するようになりました。

 ガルサンが撮影に熱中する一方、妻のモニークは彼が体面を気にせずにモノマネのようなことをして作品を撮ることを好ましく思わなかったようです。しかも撮影のためにアパートのテラスを占拠されるのですから。 そうした彼女の気持ちを察し、ガルサンは作品の中では自分を後ろ向きに撮ったり、帽子を被ったりして作品の中で彼の匿名性を保つようにしました。モニークもそれに応え「週に3日だけ」という約束でテラスを占拠することを許しました。

矢が突き刺さった矢の的が書かれた地面に立ち、弓を引く男の写真
Le coeur de la cible - Bull's eye © Gilbert Gercin

 こうしてガルサンは撮影を続けることが出来たのでした。そして次第にモニークも作品の中に登場するようになります。

 やがてガルサンは砂や小石を使ったミニチュアの舞台を使って撮影するようになります。 そこに彼自身の人形(Mr. Nobody)を切り取って登場させました。 そう、彼の作品の不思議な世界はすべてコンピューターなどを使ったものではなく、完全な手作りなのです。
 ガルサンはその後、パリ、ブラガ、ブリュッセル、ニューヨークなどで個展を開きました。彼のユニークな作品は次第に好評を得るようになりました。

大きなタンポポの種の傍に立ち、落ちた一粒の種を見降ろす男の写真
Lorsque le vent viendra - When the wind will come © Gilbert Gercin

 私がジルベール・ガルサンの作品を最初に見たのは、神戸の写真ギャラリー「TANTO TEMPO(タント テンポ)」でした。 一目見て、彼の作品の面白さに引き込まれてしまいました。
 TANTO TEMPOの山田社長のお話では、ガルサンの作品は日本の代表的写真家である植田正治うえだしょうじの影響を受けているとのことでした。 そう言われてみると、作品の中には背景に砂を使った作品がいくつも見受けられます。植田正治の砂丘シリーズは、砂丘を利用して遠近感を消した不思議な作品が多いのですが、ガルサンもその手法を参考にしたに違いありません。

二つの岩が寄り添うように立っている前で、岩に合わせて体を傾ける男の写真
Les amoureux de Peros-Guirec(Peros-Guirec lovers) © Gilbert Gercin

 すべての作品がモノクロームプリントとなっていて、シンプルで分かりやすい構成はユーモアが良く伝わってきます。 色という余計な要素が無いことが、かえって彼の表現の面白さを醸し出しています。照明をうまく使っている作品があるのも照明技術者だった彼ならではのものです。
 また、ガルサンの作品は面白いものだけではなく、示唆に富んだ作品も多く見受けられます。人生を長く生きてきた彼だからこそ、そういった作品を生んでいるのでしょう。

並んで立っている高い柱を、飛び渡ろうとする男の写真
L'ambitieux - The driven ambition © Gilbert Gercin

 残念ながらこの写真集、実は日本では販売されていないのです(2014年12月31日現在)。 私はTANTO TEMPOの山田社長にプレゼントして頂き手に入れることが出来ました。 Amazonでも扱っていないので、購入するとなれば輸入専門の本屋さんに頼むか、直接出版社のFiligranes Editionsに問い合わせるしかありません。 こんなに面白い写真集はぜひ日本でも発売して欲しいものです。
 写真集は購入出来ませんが、彼の作品は以下のサイトで見ることが出来ますので、ぜひ一度ご覧ください。
ジルベール・ガルサンの公式サイト → http://www.gilbert-garcin.com/

※本サイトの写真はジルベール・ガルサンの公式サイト、並びに出版社のFiligranes Editionsのサイトから引用させて頂いております。
出版社のFiligranes Editionsのサイト → http://filigranes.com/

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